小説引用文 名言 名台詞 (宮部みゆき)

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「ほらほら、まただよ」義男は首を振る。「また始まった。ホントは、だ。ホントは違ってた。ホントはこうだった。やめなさいよ。あんたがそのとき考えたことが本当なんだよ。本当のあんたは、そのときそのときその場にちゃんといるんだよ」
模倣犯〈5〉
自分はもともと不器用だったのか。それとも視覚障害で苦しんだことが、自分をこんな内気な人間にしてしまったのか。どちらか判らない。判っても、今さらそれでどうということはないと、高井和明は思っている。これが俺の人生だ。分相応に生きるのがいい。自分の能力の内側で。
模倣犯3
――彼らの話を聞き、その目を見ていると、もしかしたら人間のまっとうな生き方というのはこういうところにこそあるのではないかと思ったりしたものだ。正しいとか間違っているとか、有利だとか不利だとかいうことはわからない。それを決めることなどできない。だが、まっとうなのだ。間違いなくまっとうだ――そう思った。
模倣犯1
あのウエストタワーを見上げてるとき、なんですかね、あたし急にムラムラ腹が立ってきてね。なんか、あの内側に住み着く現実の卑しい人間のこととか何も考えないで、すうっと格好よく立ってるでしょう。あんなとこに住んだら、人間ダメになる。建物の格好よさに調子を合わせようとして、人間がおかしくなっちゃうって、そう思いました。
  • 理由
  • 宮部みゆき
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理由
「うさぎが飛んでおるな」
宇佐はどきりとした。さらに身を低くする。
「はあ?」と、盛助は足を止める。鳥居のそばまで行けば、遥か眼下に広がる海がよく見える。盛助は舷洲先生よりは頭ひとつ背が高いが、さらに背伸びをするようにして、青い海を見やった。
「はて……今日は凪いでおりますよ、先生」
「いや、飛んでおるよ。子うさぎもおる」舷洲先生は言った。「丸海のうさぎは元気がいちばんだ。好い日和じゃな」
孤宿の人〈上〉
「いいか、よく覚えとけ。人間が事実と真正面から向き合うことなんて、そもそもあり得ないんだ。絶対に無いんだよ。もちろん事実はひとつだけだ。存在としてはな。だが、事実に対する解釈は、関わる人間の数だけある。だから、事実には正面も無いし裏も無い。みんな自分が見ている側が正面だと思っているだけだ。所詮、人間は見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じないんだよ」
模倣犯〈4〉
「その娘に、正義なんてものはこの世にないと思わせてはいけない。それが大人の役目だ。なのに果たせん。我々がこしらえたはずの社会は、いつからこんな無様な代物に堕ちてしまったんだろう」
名もなき毒
人間は、死ねば腐るし、においもする。それまでの美しい、愛すべき顔はどこかにいってしまう。殺人が大罪であるのは、人をそんな姿に変えてしまう権利など、誰も持っていないからだ。そして、ごく普通の想像力のある人間なら、人が死ねばどんな姿になってしまうか、心で理解している。
東京下町殺人暮色
「嘘が要るときは嘘をつこう。隠せることは隠そう。加賀様は丸海におられる。加賀様も逃げ隠れできぬが、丸海藩も逃げ隠れはできん。正すより、受けて、受け止めて、やり過ごせるよう、わしらは知恵を働かせるしか道はないのだよ」
孤宿の人〈下〉
――地に根を張らぬ知の言葉は、いずれおまえに仇をなすぞ。傷つくのがおまえ自身であるならば、それもまた教訓として生きようが、他の者を巻き込むのはやめなさい。
孤宿の人〈下〉
刑事という職業に就いていると、縦にしても横にしてもどうしようもない人間を、自分の性根を腐らせ他者を傷つけ身内を泣かせるためだけに生まれてきたような人間を、げんなりするほど間近に目にすることが多い。だがその反面、ごく普通の人のごく普通の言葉、態度、生き方の在りように、いずまいを正さずにはいられないような気持ちになることもある。今、武上はそういう気持ちだった。
模倣犯1
「どっちにしろ、わしらの口を出すことじゃねえ。藩の大事は畠山の殿様の大事だが、わしらは海があって船がありゃなとかなる」
孤宿の人〈上〉
これは教訓だと思うけれど、人間、自分で選んで進む道を決めることなんてできやしないのだ。出来事のほうが時と場所を選び、勝手にこっちへ転がってくるだけだ。
夢にも思わない
あたしに必要なのはお医者さんなんかじゃない。それはお母さんだって同じはずだと、美知香は怒って叫んだそうだ。
「何が必要だというんでしょう」
私の問いに、古屋暁子は息を止めた。ぐっとこらえるようにして宙の一点を見つめ、言った。
「正義だと」
痛ましい。
名もなき毒
「思ってないならそうじゃないの?」
「さようでございます」
「簡単だね」と笑うと、ハナはうなずいた。
「万事、あまり難しくお考えにならないのがよろしゅうございます」
東京下町殺人暮色
誰かに向かって手を広げ、俺がついてるよ、一緒なら大丈夫だよと声をかけた瞬間に、人間は、頼られるに足る存在になるのだ。最初から頼りがいのある人間なんていない。最初から力のある人間なんていない。誰だって、相手を受け止めようと決心したそのときに、そういう人間になるのだ。
模倣犯3
彼女はわかっていたのだ。言われるまでもなく、心では知っていた。それでも、誰かの口からそう言ってほしかったのだ。
わたしたちはみんなそうじゃないか?自分で知っているだけでは足りない。だから、人は一人では生きていけない。どうしようもないほどに、自分以外の誰かが必要なのだ。
誰か―Somebody
義男は言った。「奴が私を気に入ってるのは、私が弱々しいじじいだからでしょう」
「あなたは弱々しいじじいですか?」
警部は、有無を言わさない強い視線を義男に向けた。
模倣犯1
「いい加減て言えばいい加減かもしれないけどさ。でもね、そういう曖昧なやんわりしたことが物事をうまく運ばせることがあるのよ。それが世の中なんだって」
模倣犯3
「ああ、そうだよ。だけども、今となっては私には、大切なのは結果じゃないんだ。結果は理不尽で、全然納得がいかないよ。それは充分わかっとるんだ。だけど、そこまで行くあいだのことが大切なんだ。もう受け身でいるのはまっぴらなんだよ」
模倣犯〈5〉
「キッチンづめになってんだろうと思ってよぉ」
「ありがとう。いい勘してる」
でも、それを言うなら雪隠づめだよ。
東京下町殺人暮色
「情けなんてものは、この世にはないのさ」
僕の親友、一学年のアレン・ダレスである島崎俊彦は、銀ぶち眼鏡を光らせながら、そんな台詞を吐く。彼みたいな子ども持っていると、親はときどき――本当に時々――そう思うかもしれない。腕のいい床屋さんである彼の親父さんは、島崎が正月の書き初めで「権謀術数」と書いたとき、彼の衿首をつかんで押入れに放りこんだそうだから。
今夜は眠れない
「だって僕もお節介ですから。有馬さんのことが心配だから、アルバイト引き受けたんです」
老人は笑った。その声が柔らかく明るかったので、真一は振り返った。
「私のこと、心配してくれとるのか。ありがとう。そんなら私らのジャンケンは、お節介と心配であいこだね」
模倣犯〈5〉
その横顔が疲れていた。人が表情をつくることができるのは、真正面から見せる顔だけだ。横顔は正直だ。
夢にも思わない
宮部みゆき」 by Amazon

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