小説引用文 名言 名台詞 (花村萬月)

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私は目尻に涙が滲むのを感じた。
みんな、切ないな。
そう思った。
皆月
「細かいことで恐縮だが」
「はい」
「愛想を振りまくは、愛嬌を振りまくの誤用だ」
汀にて―王国記〈3〉
後先を考えずに行動するくせに、反省と自己嫌悪が大好きな稚拙な自意識である。
午後の磔刑―王国記〈6〉
「――うん。許せないけれどね、なんだか可哀想になった。でも」
「でも?」
「いちばん可哀想なのは、私だね」
私は泣き笑いの表情でアキラを見た。アキラだけが私の気持ちをわかってくれる。私はアキラにすがった。私は見た。アキラの瞳が貰い泣きするように潤むのを。幽かだった。だが、たしかに潤んだ。
皆月
最近、しみじみと思うのだ。人を含む天然自然における神の創造主としての手腕は、お粗末にして芸がなく、陳腐にして退屈といわざるを得ない。自らの程度を客観視できぬ二流の画家か、芸術家気取りの三文文士がちかい。それはともかく、だ。御注意申しあげる。
豚肉を生で喰わない。
人糞を豚に喰わせない。
ブエナ・ビスタ―王国記〈2〉
ふと気づいた。テレビのスイッチが入っていない。
沙夜子との生活では、食事時はいつだってテレビのスイッチが入っていた。テレビを見ながら黙々と食事をこなしたものだ。
皆月
「そうです。そのユダです。売るときの合図が接吻なんですよね。だったら、最初からやんな、ってか。聖書読むと、もう、最初からやんなって話ばかり。だから僕は聖書が好きなんですけどね。ともはれさういうひとにぼくもなりたひ」
青い翅の夜―王国記〈5〉
「外国人が翻訳すると、こういうことがおきるんだね。これと同じように、人間が神について語ると、微妙にてにをはを誤るんだよ」
「ちょっと強引すぎますよ、理屈」
ゲルマニウムの夜―王国記〈1〉
まだ、ケリはついていないのだ。
私は拾われて、なんとなく安堵し、自分の誇りの問題を棚上げした。
皆月
すべての現実は、意味の塊に見えるだけの無意味の集合である。心的ベクトルを有していないことの恐怖が現実という虚の背後にある。価値がないからこそ、価値の附与に奔走するしかないというジレンマに陥らざるをえないのだ。
雲の影―王国記〈4〉
人は何事であっても、すべてを見えるようにしないと気がすまない病に冒されている。見えないものを見えないものとして放置できず、最後の手段として、言葉を用いて、その姿を読み取れるようにしようと足掻く。見えなければ安心できないというのは、最悪の病だ。
午後の磔刑―王国記〈6〉
太陽になれなかった私が悪いのだ。せめて月の裏側、自分の裏側を見せてあげることだけでもできたらよかったのだが、当時の私には裏も表も、なにもなかった。裏表さえなかったのだ。
皆月
「それは、あまりに好意的な見方だ。世の中には無数の屑が自らを平然と錯覚して、芸術家の顔をして反りかえってるじゃないか。すぐに感性とか口ばしる奴らだ」
「感性は、だめなのですか」
「重要だよ。すべてにまさる。でも、自分で口にする言葉じゃない。感性とは第三者が認めるものだ」
「同じように才能も」
雲の影―王国記〈4〉
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